中村 文則「惑いの森」

中村文則

作品:惑いの森

中村文則

著者:中村 文則

出版社:2012年9月25日 株式会社文藝春秋

あらすじ

ある夜、「僕」はタクシードライバーからこんな話を聞いた。
彼はタクシードライバーになる前、バーを経営していたと言う。
そのバーには毎日、不思議な客が訪れた。
その客は時間に異常にこだわり、いつも決まった時間に決まった行動をする。
行動は分刻みに決められており、少しでも予定から外れる事は許されないようだった。
やがて彼のこだわりは時間だけには収まらなくなり・・・
痛ましくも優しい物語「タクシードライバー」から始まる、全50編のショートストーリーを収録した短編集。

感想

著者の「掏摸」と言う作品が心底好きなので、短編集が出たと知った時には迷わず買いました。
小説自体は「この中に本当に50もの物語が収録されているのか?」と疑ってしまうほどの薄さですが、1話1話が短いからこそ、濃密で非常に満足度の高い短編集です。

特に感動したのは1話目の「タクシードライバー」で、見開き3ページにも満たない短い物語ですが、私はこの作品を読んだだけで「この小説の購入代金の元は取れた」と感じるくらい強く心惹かれました。

タクシードライバーが「僕」に話す「ある不思議な客」は、時間に異常にこだわっています。
しかし、それは彼が望んでの事ではなく、こだわりたくないのにこだわらざるを得ず、苦しんでいるのです。

こだわりなんて捨てて楽になりたい」、そんな彼の気持ちに反して、こだわりはどんどんエスカレートしていきます。
彼と同じ状況に陥る人は珍しいでしょう。
私だってこんな不思議な状態になった事はありませんが、私は彼の苦痛に不思議と共感し、まるで自分が経験したことのように、苦しいような切ないような気持ちになりました。

特に強く胸が締め付けられたのは、彼がいつもの席に座る事が出来なかった日の事が書かれた部分。
困っていた」、彼の心境を表すそのたった一言・・・

ただ悲しいだけではなく、自分自身の過去の苦しみや戸惑い、人にばかりか自分でも理解し切れなかったあれこれを、その一文はすっと掬い取ってくれたように感じたのです。

とても苦しかったですが、胸の奥の方が温かくなるような感動でした。
この短編集の中にお気に入りの話は他にいくつもありますが、何度も読み返してしまうのはやはり「タクシードライバー」ですね。

この作品に出会えて良かったと、出会ってから何年も経った今でも思います。

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