渡辺 淳一「孤舟」

渡辺淳一

作品:孤舟

渡辺淳一

著者:渡辺 淳一

出版社:2010年9月 株式会社集英社

あらすじ

大手広告代理店で、己の手腕ひとつで出世街道を突き進んできた主人公。
定年後には関連会社の社長のポストが用意されていたが、彼はそのポストを蹴って定年退職した。
やりたい事もやるべき事も盛りだくさんのセカンドライフを思い描き、彼の心は浮足立っていた。
ところが、定年後に彼を待っていたのは、バラ色のセカンドライフとは程遠い生活。
仕事にも時間にも追われず、彼を頼る人の声もなく、目の前に広がる無限の時間に茫然とするばかりの日々だった。

感想

この作品の主人公は60歳で定年退職した、仕事一筋の男性です。
妻子がありますが、趣味はありません。

私は未婚で子どももいませんが、仕事を生活の第一には置いておらず、多趣味なのでそれなりに毎日が充実しています。
正直なところ、主人公と私の共通点は全くありません。
むしろ、どれを取っても真逆の存在に思えます。

しかし、私はあらすじを読んだだけで、なぜかこの作品に強く惹かれてしまいました。

私は色々な趣味を持っているのでプライベートはなかなか忙しく、そして楽しく過ごしています。
とは言え、やはりふとした時に「将来、そして未来」の事が頭の中をかすめ、先の人生の長さにぞっとしたりもします。
この作品には、その恐ろしいような感覚がギュッと詰め込まれているように感じました。

それは誰もが遅かれ早かれ絶対に経験する事であり、みんな頭の片隅、そして心の片隅で「私もいつかこの主人公と同じになるのではないか」との思いからではないでしょうか。

この作品では「定年後の変化のない生活」が描かれていますが、読む方にとっては少しも退屈する事なく読み進める事ができます。

主人公自身が退屈し切っているのに、何とも不思議なものです。
やはり、数多くの恋愛小説や医療小説で人々の心を掴んできた著者の文章力がなせる業なのでしょうか。

目覚めてから寝るまでをどうやり過ごすかだけを考える毎日、定年後の長過ぎる時間を持て余す日々が淡々と描かれているのに、一行も読み飛ばす気が起きない事に気付いた時には、ある種の感動すら覚えました。

最後が綺麗にまとまり過ぎている事には少々不満足でしたが、物語の主軸はリアリティを維持したまま完結しており、とても面白い作品でした。




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