内田 康夫「津軽殺人事件」

内田康夫

作品:津軽殺人事件

テレビドラマ化されている内田康夫氏の人気作、浅見光彦シリーズ。

内田康夫

著者:内田 康夫

出版社:1991年 株式会社徳間書店

あらすじ

司法試験の浪人をしている石井靖子。
将来を考えていた矢先、故郷の津軽で古書店を営む父が「幻の太宰治の自筆肖像画」の買い付けに上京する。
しかし、父は靖子との再会後、ホテルで毒殺されてしまう。
靖子の父は手帳に奇妙な太宰治の詩の一節を残していた。
その詩の事で警察から相談を受けた浅見光彦は、靖子が親友の村上の想い人である事を知り、津軽で事件の推理に乗り出す。
事件はさらに津軽での殺人や失踪事件に発展し、靖子の父が所属していた「津軽を旅する会」の人脈から大きな社会的背景が関与していた事が発覚する。

感想

津軽殺人事件は太宰治のファンなら本当かどうかビックリするような「太宰治が自ら描いた肖像画」の話題が出たり、津軽の文化や津軽人の人間性にも触れられていて、津軽の人にとって太宰治がいかに偉大か理解が深まります。
そもそも靖子の殺された父親が、東京に出てきてまで肖像画を買おうとするあたり、単なる物珍しさだけではない郷土愛のようなものを感じました。
靖子の父の事件が発端で、事件がどんどん大きな広がりを見せ、地元の社会背景にまで発展していく点に驚かされます。

同時にこの作品で胸が痛くなるのは、靖子が浅見の親友である村上の片思いの相手で、浅見は村上の「キューピット役」を名乗り出ますが、浅見が靖子に惹かれてしまい、靖子もまた浅見に惹かれている点です。

村上への遠慮で浅見は思い留まりますが、靖子が作ったお味噌汁を期待するような発言や、靖子との何気ないやりとりを見ていると、村上の事がなければ靖子は浅見の結婚相手の有力候補になりそうな気がしました。
ミステリーとしての側面だけではなく、恋の三角関係についても詳細に描かれていて、浅見の葛藤や靖子の辛さ、村上の誠実さが痛々しく、3人が3人とも良い人なのが何とも切ないです。

他の内田康夫氏の浅見シリーズの作品では、特にライバルがいなくても、浅見は自身の結婚願望のなさや甲斐性のなさなどから恋愛に踏み込めない感じですが、この作品では珍しく「浅見が前に進みたいが、友情を優先した」と言う描写の方が強く、切なさが格段に違います。

旅情、文化、トリック、社会派的側面、恋愛小説的側面と、かなり凝縮された内容で、読み応えがある1冊です。




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